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技術開発と国際競争力 井口 雅一氏

 自動車の歴史を読むと、技術開発の成功を契機に、次々と新しい国が国際市場に参入するという止まることのない流れを見ることができる。20世紀の初め、H. フォードが大量生産技術の開発に成功するまでの自動車生産国は、圧倒的に自動車を発明した西欧であった。大量生産技術の開発成功と共にアメリカが世界一の自動車王国になり、世界中に自動車を売りまくった。第二次大戦後、欧州の復興と共に小型車技術を開発していた西欧の自動車産業が復権し、アメリカでセカンド・カーの小型車需要が生まれると、世界の輸出市場を席巻した。世界の殆んどの国の需要は小型車だった。日本でもノックダウン車が走り回った。

 1970年代の後半から、石油危機、排ガス規制を乗り切った小型車を引っさげて日本が世界自動車市場に乗り出した、品質信頼性に優れた日本車が世界を席巻し、厳しい貿易摩擦を引き起こした。日本は欧米から自動車技術を学び、ウサギ小屋に住む働き蜂が単に安いだけの自動車を世界に売りまくると非難されたが、やがて日本が新たな生産技術を開発したことが理解された。リーン(無駄のない)生産技術と命名され、ジャスト・イン・タイム生産方式は世界の常識となった。

 80年代の中頃、韓国が小型車ポニーを先頭に世界市場に登場したが挫折した。そこには世界市場を制覇するだけの新技術はなかったといってよいだろう。

 現代話題の中国は期待される大きな市場と人件費の安さから、大きな自動車生産国になることは間違いない。これまで世界の貿易市場に華々しく登場するには新技術の裏付けがあった。しかし中国の場合、市場の大きさと人件費の安さは半端ではない。新技術の裏付けなど必要ないかもしれない。

 これまで日本は、次に世界自動車市場に登場してくる強力な国がなかったので、やや安閑としていられた。世界市場の中での日本車の位置付けを強固にする手段は何か。日本には中国のような大きな市場と人件費の安さは望めない。新しい生産技術か製品技術か、あるいは利用技術か、はたまた独創的な交通システムか。まさに正念場に立たされている。
(2002年『JAHFA No.2』収録)

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