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メッセージ

選ぶことの難しさ 露木 茂氏

 当初、日本自動車殿堂の計画に参画したとき、私は三つの理由で賛成をした。1)その分野で功績ある人を顕彰し、後世に残すことに意義を感じたこと、2)技術・開発という産業の原点に着目して評価するという方向性に共感したこと、3)地道な努力を続ける産業人に光を当て、多くの人に知って貰うこと、などである。

 自動車の殿堂としての活動では、第一回目の顕彰としては、戦前に明確な自動車産業育成と振興の意図を持ち、トヨタ自動車の基盤を築かれた豊田喜一郎氏。独自の理念と強烈な個性で戦後に本田技研を創設された本田宗一郎氏、その経営パートナーであった藤沢武夫氏、またタイヤ産業の創設者石橋正二郎氏、自動車工学を体系化された平尾収教授など、誰が考えても当然の人選であり、異論の無いところであったろう。また当然の帰結として顕彰の相手が故人となるのも、止むを得なかった事と思う。その中でお一人だけ、まだ現役でご活躍の梁瀬次郎氏が快く顕彰を受けてくださったことは、まことに有り難いことであった。有為な事蹟を掘り下げ燭光を当てることは、この活動の第一義的な目的ではあるが、第一回目はともかくとして、第二回目は歴史上の人物だけでなく、現在も現役で第一線で活躍されている人々の努力と、功績を顕彰してゆければと私も期待している。

 今後も自動車中心の社会構造は、崩れること無く続いて行くと思う。しかしそこでこれから問われるものは、安全、環境に一層配慮した技術であろう。研究・選考会議に於いても当然、そうした未来を見据えながら、議論を重ねて我等に候補者を提示されるであろう。その結果を公表した場合、現役の人であればある程、例えば業績を評価する基準を示せという声も聞かれようが、それは毅然として節を通して行けばよい。そのうち回を重ねて行くことによって社会的理解もえられ、また信頼も生じてくることを信じている。日本自動車殿堂顧問の一人として、新しい視点での「顕彰」に今後とも意を尽くしたいと考えている。
(2002年『JAHFA No.2』収録)

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