「夢」を引き継ぐ「技術」 竹中 恭二氏
日本の自動車産業は、欧米のそれと肩を並べグローバルな位置付けとなった今、世界の経済活動に大きな影響力を及ぼすまでになってきました。しかし、その主要な歴史は決して古いものではなく、第二次大戦後から始まって高度成長期には高性能を追求しながら急速な拡大を見て、その後、高品質、安全対策、環境対応へという変遷を、ここ五十年余りの中で成し遂げてきました。こうした成長を支えたのは自分自身の「夢」の実現に向けて、独自の創意工夫と寝食を忘れ努力を積み重ねた私達の諸先輩であります。
当社においても、戦前の中島飛行機時代にゼロから航空機産業を興した多くの先輩技術者達が、戦後再びゼロから自動車産業に夢を描いて、純粋な国産車への技術の追求を続け、現在のスバルの基盤と社風を作り上げてきたのです。
現在、その諸先輩方から直接、間接に教えを請い、技術や叡智を引き継いで、日々の業務に携わっている方々も少なくありません。そして先達に対しての正しい評価が認識されておりますが、年月が経つにつれ、そうした先輩達の自動車にかける熱い思いが忘れられてしまうことがあるとしたら、それは大きな損失であるといえるでしょう。
今後、より高い品質の追求や地球環境負荷の少ない新しい技術開発、自動車ユーザーへのより広範囲なサービス提供など解決していかなければならない困難な課題は多く、これまでの歴史で、諸先輩方の目標に対する達成の執念から真摯に学ぶことも大切だと感じています。
日本自動車殿堂により、優れた業績を残した先達の功績をたたえ、加えて広く社会に紹介する機会ができましたが、私達自動車産業にたずさわる人間にとっても格好の勉強の場ができたと言えます。日本自動車殿堂が今後歴史を重ねるとともに、これからの新しい歴史を創りだすことで、日本の自動車文化の発展にかかせないものになると信じております。
(2002年『JAHFA No.2』収録)