第二回日本自動車殿堂に寄せる 梅野 勉氏
第二回「日本自動車殿堂」の顕彰を迎えるにあたり、各位のご尽力に深い敬意を表すると共に、心からお慶びを申し上げます。昨年発足した「日本自動車殿堂」の創立目的では、百有余年の歴史を刻む自動車産業史の中でも、特に我が国における自動車産業の発展に貢献した人々を顕彰する事を目的とし、あわせてその精神が謳われています。私自身も、この「自動車殿堂」の精神に賛同する一人として、この顕彰を大変意義あるものとして受け止めております。
世界中の人々がその恩恵を享受している自動車。中でも日本における自動車産業は、戦後の昭和24年10月、GHQによって発せられた「乗用車の生産制限の解除」以降、ダイナミックな歴史を刻み始めます。その後の日本の自動車産業は、戦後復興の象徴として我が国に広大な視野を持つ様々な産業を育み、今日では世界をリードする数多くのビジネスモデルをも生み出し、産業界をリードしてきた歴史は誰もが認めることでしょう。国産自動車の本格的な誕生から60有年余の時が過ぎた今、我が国の自動車産業は、地球環境問題や企業のグローバリズムなど、複雑多岐な問題を抱え、大きな時代の岐路に差し掛かっています。このような中「日本自動車殿堂」が、自国の産業に献身された多くの先輩諸氏の偉業を振り返り、先人に対して深い尊敬と感謝の念を抱く契機を提供することにより、多くの国民が自信と誇りを得ることになると信じています。
昨今、新たな転機を迎えた自動車産業は、地球環境への配慮と人類発展のための有益なビジョンを明解にする事が、より一層求められています。特に、先の京都議定書で採択された二酸化炭素の排出量削減や、ヨハネスブルグ会議で論議された「継続」に付帯する「試練」と「困難」への具体的な挑戦など、新たな課題に対して真摯に取り組んでいかなければなりません。言い換えれば自動車業界は、人類の欲求から生まれた「モビリティ」を将来に渡って確実に提供し続ける為に、新しい技術革新や斬新なアイデアを取り入れ、地球環境との共存を図りながら、新しい価値観とライフスタイルに見合った魅力溢れるクルマを生み出していかなくてはならないのです。そのためには、顧客との対話を進めながら、時代を敏感に理解し、クルマ造りに対して熱い情熱を注ぐことができる強いリーダー、すなわち「カーガイ」によるリーダーシップが今まで以上に必要となってくるでしょう。
日本の自動車産業黎明期に見られたように、これからの自動車産業界にも新たなチャレンジが無数に待ち受けているはずです。しかし、先人達が数々の困難を乗り越えてきたように、自動車産業に携わる者が切磋琢磨し、知恵を振り絞って対処すれば、必ず次なる世代へと、自動車と自動車産業を継承していけるものと信じています。こうした転機であるからこそ、「カーガイ」の足跡を振り返る「日本自動車殿堂」が非常に大きな意味を持ってくるものと大いに期待しています。
最後に、自動車がいつまでも夢のある乗り物であり続けることを、自動車産業に携わるもののひとりとして祈念しております。
(2002年『JAHFA No.2』収録)